「夏と花火と私の死体」 乙一

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体
乙一 / 集英社 (1996/10、文庫2000/05)


評価:★★☆☆☆


今回の感想は少々ネタバレとなる事柄に触れますので
未読な方で今後読む予定の方は
これ以上読み進めない事をお薦め致します。

また今回は少々酷評です。
ホラー、サスペンス、グロ、サイコキラー好きの自分としては
気にならないわけが無い乙一氏の作品。
目や耳にする非常に高い評価の数々から
期待をし過ぎていたのかもしれないですね・・・。


さて本作はこの薄さにして表題の『夏と花火と私の死体』とは別に
『優子』という作品が収録されています。
その事からもお分かり頂けるように、とても短いお話です。
しかしそれは「短編小説」と呼ぶには微妙な長さで。まずそこが勿体無い点!!

ニ作品とも内容、テーマともに斬新で非常に魅力的であるのです。
もっと掘り下げて書き込んでいれば
もっと話は広がって、もっと濃い内容になっていたでしょう。
逆に、余計な部分を排除して、もっとテンポを良くしていたら
素晴らしい短編小説になっていたと思うのです。
どちらにもなりきれていないこの中途半端さ。ああ勿体無い事だ!!


さて内容の方ですが、本編『夏と花火と私の死体』。
物語を綴る人物「私」が「殺された死体の少女」であるという
その斬新さにまず感嘆しました。これは面白い着目点!!

しかし、完全に一人称で語られるこの物語の語り部は常に彼女であり
「私(五月)」から見える範囲、感じた物事しか記される事は無く
五月の知らない事は読者にも知らされる事はありません。
つまり、五月以外の実際に行動している人物達の心情が
ほとんど分からないままなのです。
自分が犯罪者の心理を紐解くような物語が好きだからかも知れませんが
そこが非常に物足りなかった。

特に意味深な書かれ方をされていながら
それについてまったく触れられないままであった「健」君。
必死にと言うよりも楽しそうに死体の処理を行う彼の
その残忍性は何なのか、どこからきたのか。
以前からこのような事に興味があったのか。
過去にも似たようなことをした事は無いのか。

また「緑」さんに関しても同様で
なぜあのような犯行をするようになったのか。
またその犯行の内容は。彼らの扱い方は。彼らへの想いは。
緑さんに関しては複雑な家庭環境についての記述がありましたが
「こういう家庭だったからあんな犯罪を犯すようになってしまったんだよ」
と言いたかったのであれば、それは少々安直でしょう。

本作は死体の存在がバレそうになる緊張感、ドキドキ感を読むお話。
なのでしょう。そうなんでしょうね。ああでもでも!!
折角こんな二人も有能なサイコキラー的人物が登場したのに!!
ああ、彼や彼女の過去や考え方や想いや真理を知りたかった・・・無念です。


この作品を読む前に漫画版『GOTH』を見ていたからか
自分の中で「これくらいのことはやってくれるだろう」という
変な期待と言いますか、より一層の残酷な結末を期待していたせいもあり
この終わり方には少々肩透かしでした。

行方不明の父親は実は緑が殺し、あの穴に捨てていた。とか。
あの穴から大量な人骨が発見されて
それは実は健君や緑さんだけでなく
昔からその地域での犯罪で死体処理に利用されていたものだった。とか。
行方不明の少年達のその後の成れの果ても。
もっと。もっと!!と。
『GOTH』ではその辺りの欲望が十二分に満たされただけに
本作のこの物足りなさは残念でなりません。


それとこれは私個人の趣味の問題ですが
「淡々とした文章」と言えば聞こえは良いですが
「〜した。」「〜だった。」を多用する作文のような文体が少々気になりました。
これが『夏と花火と私の死体』だけのものであったら
語り部たる「私」は9才の少女なのですから「演出」という事になりますが
しかし『優子』でもこの文体なのですもの・・・うーむ。


と、ここまでなんだかんだと書いてきましたが
取り扱うテーマや内容は、やはり非常に私好みなのですよ!!
ですから他の作品も読んでみたい。です。読んじゃうよ。
16歳の時に書いたという本作から、現在どのように成長を果たしたのか
そういった意味でも、他の作品とても楽しみです。
さて、次は何を読もうかな〜。


あと最後に。まあ余談ですが。
いくら寒いからといって、女性社員が一人しか足を踏み入れない倉庫なんて・・・
無いよねぇ・・・。


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posted by 麻吉 at 2006/06/01 21:08 | Comment(2) | TrackBack(5) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

初めまして^^*

あまりに私とそっくりな感想にびっくりしてコメントします

確かにハラハラして本の世界に引き込まれたんですけど健君と緑さんと弥生ちゃんの心情が知りたかったです…
Posted by リサ at 2011年08月01日 17:45
夏と花火と私の死体買いました
Posted by コナミ at 2012年08月08日 19:52
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個人的読書記録 | 2007-03-04 02:35
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日記/源氏の宝物 | 2007-04-15 00:52
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