「殺戮にいたる病」 我孫子武丸 ※再読

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

殺戮にいたる病
我孫子 武丸 / 講談社 (1996/11)


評価:★★★★☆ (※再読評価)


このような性的嗜好が顕在化する要因として、フロイト派では、幼少時に見た「眠っている母親の姿」に愛情を感じ、それが欲情へと変化するためであると考えられている。 (wiki「屍姦」より)


母の美しい寝姿に、子は人生を狂わされる。


同じくネクロフィリアを題材とした『死人を恋う』を読んで
久し振りに読み返したくなり再読。
今回は「物語に集中する」と言うよりも
前に読んだ時、自分はどこで騙されたのかを探り出すのに集中してしまい
以前感じたような猟奇さや、痛みを感じませんでした。

というか、当時は刃物を使って各部を切り取るシーンなどは
女として、もー胸元やお腹の辺りがムズムズすると言うか
こちらまで痛みを感じてしまい、気分が悪くなるほどであったのですけど
今回は「あれ?こんなにアッサリしてたっけ?」と拍子抜けするほど。
もっと猟奇的だった気がしたのだけど、再読ってそんなものかな。
いや、これを「アッサリ」だと感じるようになってしまった
自分がマズイのか。それか。それだな。

しかし、再読して改めて感じた事は
本作は異常性愛者の行動や思想のおぞましさによる「猟奇性」だけでなくて
警察や肉親がジワジワと犯人に近付いて行く緊迫感や
最後のどんでん返しを含め、小説として、エンターテイメントとして
素晴らしく読ませる作品だと思いました。良作!!


※この先ネタバレします、未読の方立ち入り禁止!!※


とにかくそんなわけで「間違い探し」をしてみたのですが
これがまた本当に巧妙で驚きました。

色々な行動が言葉が
そうれはもうハッキリと「犯人は息子では無い」事を指し示していて。
例えば雅子が息子を殺人者だと疑う切っ掛けとなった血付きの黒いゴミ袋。
彼女はそれを「息子の部屋のゴミ箱」から発見したわけですが
実際に犯人が捨てた場所は「台所のゴミ箱」で・・・。
こんな明確な違い。気付きそうなものなのに、なぜ気付かないかな私!!

もちろん初めて読んだ時、本作にこんな要素があるなんて知らなくて
ただ普通に「猟奇小説」として読んでいたからというのもありますが。
でも悔しいっ!!!!
恐ろしき「犯人=稔=息子」という思い込み。本当完敗。


そう言えば、読み返していて「これってどうなの?」と思った所も少々ありました。
それは稔を見たバーテンダーの「年齢は三十くらい」と言う証言。
稔は実際は43歳だったわけじゃないですか。
「30代」という表現であればまだしも
「30歳」と言うのは、いくら若作りでも流石に無理が無いですか?
わざわざ、そんなハッキリと年齢を出さなくても良かったのではと思うのです。
「老けた学生みたいな感じ」だけで良かったと思う。

あと、稔は一人目の被害者が通う大学に「助教授」として勤めていたんですよね
この子は一年生だったから、まだ彼の顔など知らなかったのだろうけど
しかし、自分を知る者が沢山いるかもしれない学食で
院生なんだよとかそんな嘘、つけるものかな?
自分大学行った事無いんでその辺良く分からないのですけど
でも結果を知っている状態で読んで、凄く引っ掛かった部分でした。


あ、あと。これは引っ掛かるとかではなくて、勝手に思った事ですけど
息子、死なせる必要は無かったんじゃないかなーって。
刺されたとしても意識不明で病院運ばれて
それで終わりで良かったんじゃないかって凄く思うのです。
だって、残されたお母さん。救われなさ過ぎるでしょう。
夫は異常殺人者として捕まって、義母も殺され、息子まで殺されて。
娘と二人残されて、あまりにも酷い。

確かにこの母親にも駄目な所はあって、罰は必要だったかもしれないけれど
でも、少しは救いがあっても良かったと思います。

いやでもこれで息子生き残ってたとしたら、このお母さん
改心するどころか、もっと異常に監視するようになってたかもですけどね・・・。
息子にとってはある意味幸せな結末か。
って、この作品で一番可哀想なのは息子だった事に今気付いた!!
うう・・・正義感もあって素晴らしい子だったのに・・・うう・・・。


あ、そうだ。最後に物凄い余談ですが。
前に読んだ時にはまったく気にならなかった、というか印象に薄かった
3人目の被害者の妹「かおる」。
彼女がめちゃくちゃ嫌な女でビックリしました!!(笑)
こんな子だった?もっと健気で良い子のイメージだったのに。
姉死してなお、姉のお気に入りなモノを奪おうとするその精神!!
仕事まで辞めて「姉の為に」なんて、元刑事さん落とすのが最大の目的じゃん!!
恐ろしい・・・恐ろしい娘だよ・・・。


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posted by 麻吉 at 2007/01/24 20:29 | Comment(6) | TrackBack(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
昨日読み終えました。
やっぱ再読してしまいますねw
しかも2度目は全然違う視点で
この結末をにおわせるポイントがどこかにあっただろうかと・・・

>「台所のゴミ箱」
は犯人が捨てたもの

>「息子の部屋のゴミ箱」
は息子が掘り返したものではないか?と思います
なぜなら雅子が玄関から帰ってくる人影を
「息子」だと断言していたからです

息子はうすうす犯人の行動を感ずいていて
庭に埋められていたものを見つけ、その後
犯人が撮ったビデオを見てしまい
母によそよそしくなってしまったのも納得
できることだと思います

大学の先生ではないかというのはうすうす
おぼろげに考えていましたが、やはりあのバーテンの証言がひっかかりましたねw
店内が暗かったせいでしょうか

読み返して一番やられたって思ったのは
義母の同居。近所の老人との長話と、大学を休んだときのやりとり「今日は大学は?」のくだり
でしょうか・・・よーく読み込むと話口調が
違うんですね、雅子のしゃべり方じゃないというか。

これが書かれた当時は今ほど残虐な事件は
あまりメディアにでていませんでしたから
怖いことに時代に慣らされてしまったんでしょうね

一度目と二度目では全然違う本になってしまう
お徳なような、少し残念なような本ですね

Posted by まみすけ♪ at 2007年01月31日 17:17
>まみすけ様
おお同士!!本当に面白い小説ですよね!!

黒いゴミ袋の件は、掘り返した物では無く
「犯人が台所に捨てた物」=「息子の部屋にあった物」ですね。
1月4日に初めて乳房を持ち帰った時は包丁を買った時の普通のビニール袋でしたし
2月3日の犯行で初めて自分で用意した黒いビニール袋が登場して
家に帰って肉塊は他のビニール袋に移し、その血がついた袋を台所に廃棄。
で、雅子が息子の部屋で発見したのは2月4日。
なので3日の深夜(正確には4日早朝)に帰宅した息子が台所で発見して
自分の部屋のゴミ箱に捨てたのでしょう。
(埋めた物は4日以降も犯人が掘り起こして使ってましたしね)
息子は、父親が台所に捨てた姿を見ていたのかもしれません。
それを発見した時、どんな気持ちだったか・・・ああ、考えただけで切ない。

本作は主人物の章によって月日が前後するので時系列、ごっちゃになりますよね。
そこがまた、惑わされるポイントなのですが。
本当につくずく良く出来てる作品だー!!
Posted by 麻吉@管理人 at 2007年01月31日 21:47
こんにちは。
ついさっき「GOTH」のほうにもコメントさせていただきました。
こちらのサイト様をきっかけについに「殺戮にいたる病」ゲット!です!
これこそ私が求めていた小説!といった感じです。異常な猟奇殺人者の心理が気持ち悪いほど
丁寧に書かれていて、衝撃的でした。
やっぱり各部を切り取るシーンはもぞっとします。
最後はやられましたね。見事にだまされました。
まさかそうくるとは思いませんでした。
疑問は残るのですが、それでもやっぱり巧妙な作品ですね。

かおるは嫌な子でしたね。何故殺される寸前まで
一緒に行くのか憤慨です。
管理人さんのおっしゃるとおり、息子さんは本当にかわいそうです。

素敵な本を紹介していただき有難うございました。
Posted by 一輪 at 2007年03月03日 19:33
| >一輪様
| こんにちは!!

| わわ、私の感想で興味を持って頂けたなんて、とても嬉しいです!!
| 本作はトリックも素晴らしいですし
| もっと沢山のミステリーファンに読んで頂きたいと常々思っているのですが
| 内容が内容なので、気軽に友達に薦められないのがタマニキズなんですよね・・・。

| 一輪様は猟奇系作品がお好きなご様子。ふふふ。
| それにどうやら好みも似ているような。
| もしお薦めの作品などありましたら、今度教えて下さいね!!
Posted by 麻吉@管理人 at 2007年03月03日 21:18
何年の前の記事ですがコメントさせていただきます。
かおるは純粋に姉を殺した犯人を捕まえたいと思っていたのだと思いますよ。樋口の気をひくのが目的ではなかったはずです。彼女と樋口が性的関係を持ったとしてもそれは恋人としてではなく同じ傷をかかえ、同じ罪悪感を共有する者同士の慰め合いのような意味合いが強いと思います。

ノルウェーの森のワタナベとレイコさんのような。
Posted by 名無しさん at 2011年07月27日 16:17
院生と言っていたのは大学内でなく喫茶店だったのでは?
Posted by そら at 2011年09月10日 21:27
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