「姉飼」 遠藤徹

姉飼

姉飼
遠藤 徹 / 角川書店 (2003/11、文庫2006/11)


評価:★★★☆☆


サディズムとマゾヒズム。貴方はこの作品にどちらを感じるだろうか・・・?


身体を串刺しにされ、凶暴に呻き暴れる“姉”に魅了された男 『姉飼』。
自分好みに設定した女の子を作リ出すことが出来る 『キューブ・ガールズ』。
人々を優しく見守っていたジャングルジムの話 『ジャングル・ジム』。
有力者の支配する孤島で起きた連続殺人事件 『妹の島』。
以上4作品収録の短編集。


発売当時、このインパクトのあるタイトルから
実姉あるいは義姉を「監禁」「調教」するような。そんな背徳的で淫靡で。
完全なる飼育』を連想させるような話なのだと勝手に想像していたのですが
これがまた、まったく予想と反しておりました。ちょっと残念。なんて。

それと本作は『日本ホラー小説大賞』を受賞した作品という事なのですが
「ホラー(恐怖)」小説かと言われると、少々首を傾げてしまいます。
全話を通して特に恐怖は感じなかった。
そこにあったのは、薄暗くてジメジメしてヌメヌメで臭くて不潔で不快な世界。


なんてそんな書き方をすると、イコール「嫌な作品」と思われてしまいそうですが
それは違うのです。そうでは無い。
むしろこの独特に狂った世界観がこの作品の魅力であり美点。
特に『姉飼』と『妹の島』の不気味さには感動を覚えたほどで。

日本にまだ闇や貧困や、そんな薄暗さがあった時代のような。
しかしあくまで似て非なる世界。パラレルワールド。
脂まみれになりながら脂で出来た神輿を担ぐ脂祭り。強烈な臭いを放つ蚊吸豚。
拳ほどの大きさのある蜂。人の顔に羽根が生えたように見える蛾。
そして串刺しにされてもなお暴れ続ける凶暴な姉・・・。

それらは完全に私達が暮らしている現実世界には存在していないモノで。
見た事も、触った事も、嗅いだ事も、聞いた事も無い。
だというのに、なぜかハッキリとその風景や造形が想像出来るのです。
濃密でまとわり付くような空気も、息が詰まりそうなほどに強烈な悪臭も。
ドロドロでブヨブヨでギトギトした感触も。
ライトに浮かび上がった不気味な羽根の生えた顔も・・・。

それはつまり、その世界を作り出す発想力の凄さも然る事ながら
表現力や記述力もまた素晴らしいという事で。
その才能は本物であるのではないかと。


が、しかし。しかしなのです。
ここまで濃密な世界を構築して、その世界に読者を引き込んでおきながら
肝心なストーリーが・・・今一歩・・・。
なんと言うか、美術監督としては非常に優秀で有能な人なのだけれど
キャラクターデザインや脚本に関しては未熟。そんな感じでしょうか。

だってですね、『妹の島』などは本当に物凄く勿体無いと思うのですよ。
この不気味さに加えて、まるで横溝正史の金田一シリーズを髣髴とさせるような
設定や要素や、謎の人物や刑事まで用意されていたのに
サクサクと、まるで作業のように人が死に
驚きも、余韻も、感心も、感動も、謎の解明もされる事無く終焉。あれ?ですよ。
『姉飼』はまだ主人公の一人称で、彼の気持ちに寄り添う事が出来たけれど
『妹の島』は誰の物語であったのかも・・・。

本当に、何度も言うようですが、ひたすらに勿体無いの一言!!
しかし本作は著者のデビュー作という事ですから
この先作品を重ね、熟練度が上昇したならばきっと
世界観はそのままに物語的にも素晴らしい作品が生み出されるであろうと。
そんな期待と共に、再びこの奇妙な世界と出会える事を楽しみにしております。


ちなみに、前に挙げた2作品とはまた雰囲気が違う。
明るくポップで優しい空気さえも漂ってきそうな
『ジャングル・ジム』と『キューブ・ガールズ』についてですが

『キューブ・ガールズ』は若い女の子独特の一人称の語り文に
少々取っ付き辛さはありつつも、その明るさゆえに訪れる絶望感は鮮烈で。
本気でゾクッとして、彼女の気持ちと同調して凄く悲しくなってしまいました。
「ストーリー」としては本作品群の中で一番好きかも。
我が侭を言えば、『姉飼』や『妹の島』と同じ本に収録するのでなくて
こういった近未来的作品だけでまとめた本として出版して欲しかったかな。
あまりにも雰囲気が違くて戸惑ってしまったので。

もう1つの作品『ジャングル・ジム』についてですが・・・。
大変申し訳無い事に、私の想像力では登場人物達をちゃんと画像化出来ませんでした・・・。
だってジャングルジムが女性とレストラン行ったりするんだよ!!そんなー!!


と、そんなわけで。世界観は文句無しの★5つの満点。しかし物語は★2つ。
総合で★3つという感想で御座いました。
さあ次作の『弁頭屋』はどうかなー・・・?


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posted by 麻吉 at 2007/04/18 22:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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