「素晴らしい世界 全2巻」 浅野いにお

素晴らしい世界 (1)

素晴らしい世界 全2巻
浅野 いにお / 小学館 (2003/05/19)


評価:★★★★☆


今生きているこの世界を「素晴らしい」と思えない。そんな貴方に捧ぐ。


勢いで大学を辞めたはいいが、目標も無く宙ぶらりんな生活を送る女の子。
その気の強さから素直になれず仲間はずれにされている小学生の少女。
フリーターである自分や将来に微かな不安を持つ同棲中の恋人たち。
夢を口にするばかりで現実から目を背け、逃げてばかりいる浪人生の男の子。

ここに描かれているのは普通の・・・いや
どちらかと言えば「駄目」な部類に入る、今時の人間達だ。
世の中に無関心で、無気力で、面倒臭がりで、排他的で。
「どーせ俺なんか」と達観したそぶりをしながら、心の奥では焦ってる。
日々目標に向かって努力しているような人からしたら
「おめーら甘えてんじゃねーよ!!」と一喝されて終わりだろう。
私もちょっとだけそう思ったし。
けれども彼女や彼らは私の中にも少なからず存在していて。

だからそれぞれの物語の終わりに主人公達が笑顔を見せたり
少しだけ前向きになった姿を見て、私まで元気になれた。
そんな素敵な物語がギュウギュウに詰まっている。名作です。


あと本作はそれぞれ異なった人物が主人公の短編集なのですが
1つの小さな町を舞台にしている事から、彼らは完全に「他人」でもなくて
ある物語の主人公と別の物語の主人公は教師生徒の間柄だったり
アパートの隣人だったり、姉妹だったり、同じ予備校の生徒だったり。
友人や知り合いとまではいかなくとも、どこかで少なからず関係している間柄で。

虹ヶ原ホログラフ』を読んだ時にも感じましたが
普通に「物語」としてだけの面白さとは別に
あれ?この子、前の話に出てた子か?と1巻読み返して
やっぱりこの子だ!!この子はこの子の彼氏だったんだ!!なんて
そんな関係探しをするのも、この作品の楽しみ方の一つだったりしました。
「風鈴」というキーワードだけで隣人である事を臭わせたり。凄い。

あと、そういう何気ない人間の繋がりみたいな物を感じられるので
至極当たり前の事なのだけれど
どんな人にも「人生」がある。なんて事に改めて気付かされたり。

会った事の無いアパートの隣人にも。
電車で目の前に座って疲れて寝ているサラリーマンにも。
道ですれ違った買い物帰りの主婦にも。
コンビニでレジを打っている青年にも。
生活があり、人生があり、歴史があり、感情があり。
泣いたり、笑ったり、怒ったり、悩んだり、喜んだりしているのだと。
いや、本当に当たり前の事なんですけどね。でも忘れがちだと思う。
そういう事を忘れないでいれたら、きっともっと人に優しく出来るよね。
それって簡単そうで、とても難しい事だ。


なんか、色んな角度から考えさせられる作品でした。
でも真面目な話なのだけれど重過ぎてもなくて、案外明るくて。
そこがまた良いんだ。本当絶妙だわ。


と、ここまでは大大大絶賛なのです。が。不満な点が1つだけあります。
それは「ラスト」。

折角目の前に広がった希望や幸せや、頑張ろと言う気持ちを
全体の締め括りである最終話で、わざわざそんな「架空の設定」まで持ち出して
後ろ向きにする必要があったのか?
彼女が彼女にかけた魔法だけが、どう頑張っても共感出来ない。
★1個分。ここだけが残念でならない部分です。


そんなわけで、私的には最後の最後に悔いの残る結果となってしまいましたが
しかし、それまでの物語は本当に心から素晴らしく。
何とはなしに、良く分からないけれど、常に不安があって焦りがある。
そんな若者達に是非読んでもらいたい。です。お薦めです!!


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「おやすみプンプン (1)」 浅野いにお
posted by 麻吉 at 2007/06/15 23:53 | Comment(2) | TrackBack(0) | COMIC | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自分も最近「素晴らしい世界」を読みました。
めっちゃ感動しました!!
こんな素晴らしい物語を書ける漫画家さんがいたなんて驚いてます。
今は「ぷんぷん」を読書中ですー
Posted by ぶるべり at 2011年03月06日 16:55
ここでこの作品の紹介を読んでこの漫画を手に取りました。紹介してくださってありがとうございます!素晴らしい作品に出会えたことに感謝します。私はこの結末だからこそ、生きてるって素晴らしいって思いました。ソラニンも読んだけど、この作品の方がずっとずっと大好きです。
Posted by かよ at 2011年04月08日 08:54
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