「D‐ブリッジ・テープ」 沙藤一樹

D‐ブリッジ・テープ (角川ホラー文庫)

D‐ブリッジ・テープ
沙藤 一樹 / 角川書店 (1997/06、文庫1998/12)


評価:★☆☆☆☆


彼の叫びは、貴方の心に届くだろうか。


近未来の日本。
不法投棄のゴミで埋め尽くされた横浜ベイブリッジ、俗称“D-ブリッジ”で
1人の少年の死体と1本のカセットテープが発見された。
耳障りな雑音と、かすれた少年の声が収められたテープ。
会議室に集められた要人達の前で、今彼の告白が再生され始める・・・。


第4回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し
また角川ホラー文庫から出版されている作品なのですが
“ホラー”という分類とは少々違う気がしました。
本作にオバケや怪物、猟奇殺人犯といったモノは登場しません。
そこにあるのはゴミ山での少年の悲惨な生活風景。
ただ“生きる”ためだけに必死だった彼の切ないまでに壮絶な記録。

本作を知る切っ掛けとなったamazonの感想や他レビューサイトでも
採り上げているのは“怖さ”でも“グロテスクさ”でも無く“感動”で。
そしてほぼ全ての人々が絶賛されていて。


しかし・・・どうやらそれら感想を先に読んでしまったのが不味かったようです。
私は本作に過剰な期待を寄せ過ぎてしまった。結果。

私の琴線には触れてくるものはありませんでした。


いや、でも、うーん。期待のせいだけでもない。かも。です。たぶん。
いやいやだからってこの作品が駄目と言うのではなくて
駄目なのは私の方。私の人間性。
なんて、前振りをするなんてちょっと卑怯ですけど
でも私が読んで、正直に思った感想はこうだったのです。

「橋出りゃいいじゃん」

ゴメン!!本当にゴメンナサイ!!
いや一度は脱出を試みて、その時に酷い体験をしたからとか
足が不自由になって、容易く長距離の移動が出来なくなったからとか
そもそも幼かったからとか、分かります。分かるのですよ。
でも、もしこれが自分だったらと、そう考えた時
ちょっとずつ、ちょっとずつでも歩を進めて、それこそ這ってでも
その場所から離れる事を、都市へ向かう事をしていたのではないかと
そう思えてならないのですよ。
だってベイブリッジですよ。
大陸を横断して国境を越えるわけじゃない。

だから物凄く冷たい言い方をしてしまうけれど
それ、自分で選んだ道でしょう?と・・・

うーんいや、その言い方もちょっと違うか。
彼は好き好んでそこへ行ったのではないのだものね。
彼に落ち度は無い。完全な被害者なんだもの。
でも、そう分かっていても
橋から出ず、そこで生活する事を最終的に決断したのは君だ。と。
そんな冷めた目で見詰める事しか出来なかったのでした。

あーもう、そんな風にしか感じられない自分が嫌だ。本当に。


そんなわけで“感動”はしなかったのですが(重ね重ね申し訳無い)
それとは別な部分で少し興味深い事はあったのです。
それは“相原”という男の存在。

あ、ここからネタバレとまではいきませんが
少々内容に触れますので、未読の方はご注意頂きたいのですが

相原はこの悲しい少年のテープを私利の為に利用したわけですけども
彼は本当にこのテープをたまたま発見して
そして「これは使える」と思ったから利用しただけなのだろうか?と・・・

と、言うのも、相原について謎の部分が多く残ったままだと思うのですよ。
例えば会議室の女性二人が話していた“相原の姪”の話。
あれ、サラッと語られただけで、その後一切触れられる事無かったですけど
真実はどうだったのでしょうか。
例えばあれが真実だったとしたら、橋に捨てたのは相原という事になるけれど
でも相原は再開発を進めたい立場の人間で
希望通り再開発が行われて、そこでエリハが発見されたらマズイですよね・・・?
そう考えるとあの噂話は真実では無い・・・となるけど
じゃあわざわざあの噂話を挿入した作者の真意はなんだったのか。

あと、最後の“虫眼鏡と古新聞とガソリンによる仕掛け”も
私ははじめは、この場所を呪った少年が
こんな場所は消えてしまえばいいと考えて設置したものだと
そう解釈したのですけど、でも良く考えたらそんな事をしたら
折角誰かに聞いて欲しくて吹き込んだテープまで燃えてしまいますよね・・・?
何かの証拠を隠滅する為か、その場所の工事を執り行い易くする為に
相原が設置したと考える方が無難ではないのか・・・?

いやそもそもこの一連の出来事は全てが相原の計画なのでは・・・?

なんて。
何度読み返しても、そんな記述は無いので考え過ぎなのでしょうが。
でも凄く引っ掛かっているんです。
私は上っ面だけしか読めていなくて、もっと深い何かに気付いていないのではないかと。
・・・というか、もしかして気付いてないの私だけだったり・・・?
あ、有り得るかも!!


えー最後に。こんな感想を書いておいてなんですが
もし、本作に興味を持って、読む前にたまたまここに辿り着いてこれを読んでしまった
そんな方いらっしゃいましたら、私の感想など今すぐ忘れて
素直な気持ちで本作を手に取って読んでみて欲しいと思います。
貴方は少年の心に触れて、涙する事が出来るかもしれないから。

「虫」「痛み」「血」関係が苦手な方は十分ご注意下さいね。


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posted by 麻吉 at 2008/02/05 01:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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